小林恭二著「俳句の愉しみ」(岩波新書)を、読んで、にわかに俳句づき、季寄せを片手に、句作りを始めたのが、1995年4月のことである。
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花吹雪 早過ぎる死を 惜しむべし 95.4.19
かぶと煮や 釣友としゃぶる 春の宵
赤き芽の 花を欺く 楠大樹 95.4.21
坊主刈り若葉で隠す銀杏かな 95.4.24
夏を待つプールや蝦蟇の一泳ぎ
色帯びた 花粉の風や 眼の痒み
冬の水 キリリ和服の 女(ひと)写す
アイビーの 鉢に水呉れる 春灯下
卒業の姪四年ぶり花の庭
花よりも命を急いて友の逝く
花に似て短き命友は逝く
弟と何年ぶりや萩の道
霜かとも夜半の庭の月の影
すり足の父と墓参の新樹かな
雨曇り若葉の森も煙たり 95.4.25
柔らかき春の光や苔清水
見上げればいま満開の藤の花
うららかに鯰の髭の光りおり
うららかに鯰は髭を光らせて
のどかなる日と裏腹の眼の光
暖かな風よと童女手を伸ばす
水温む水切り石を投げてみる
春の日やコートに弾む球の音 95.4.26
永き日にこそとも音せぬ離れかな
遅き日になにやら惑う家路かな
春暁の庭静まれり色淡わし
春昼の冷たき奥で妻抱かな
蝙蝠の往きつ戻りつ春暮れる
春の夜や微かに蠢くもの匂う
春の空あてどもなしに熱気球
絵にしたき薄紫の春の雲
山襞のひとつひとつに立つ霞
朧なる月に音なき枯れ葎
荒東風やロブのボールを追いまくる
春風の飛ばせし帽子逃げ回る 95.4.26
風光るすでに短き袖の女
春陰の庭に動ぜぬ蟾蜍(ひきがえる)
一人旅泣きたきほどの春の雨
春雷の遠きこだまや木々騒ぐ
静けさや夢やぶられて春の雪
静かさや夢やぶらるる春の雪
春泥や園児群がり踏みしだく
湯気たてて裸足に温き春の土
陽炎に眼を凝らさずや揚げ雲雀
春疾風戸鳴りの中を急ぎ足
つちふるや葉陰で鳥の毛繕う
春山に清水汲みたり雪の味
この辺りゲレンデなりしタラ芽摘む
春の野に摘むや若菜の指を染む
囀るやもう餌台に来ぬ鴬(トリ)の
たらの芽を摘むやリフトで見し辺り 95.4.27
声のする空は眩しき揚げ雲雀
首傾げやおら飛び立つ雉一羽
天窓に遊覧飛行か蝶の影
迸る流れの底に春の草
摘み草や危うき縁に獲物あり
蓬餅幼き頃の香で香る
すみれ草見つけてただに嬉しかり
たんぽぽをしばし見守る下山道
ヒヨ飛びつ縋りつ椿の密吸いぬ
春の田のげんげに早き月の出ず
トラクター耕しかねて人を待つ
畑打ちは名ばかり早き昼にする
麦青みRVで行くどこまでも
右左首巡らせて春の水
音たてて流れる水と芹競う
風強し遥かに春の海のどか
有明の磯菜洗うや春の潮 95.4.28
酒蒸しの蛤うまき地酒かな
わかめ取る小さき子らの影黒く
すれ違う遍路に譲る山路かな
言うがまま凧揚がりたり吾子の笑む
ぶらんこよ雲より高くなお高く
風車くるくるくると子らを呼ぶ
春眠の醒める要なき豊かさや
春愁の午後は冷たき石畳
春浅し鬼押し台は小雨かな
胸元の余寒や燗の染み渡る
日は木漏れ音すさまじく雪解澤 95.5.1
残雪の心許なき雨の中
白魚の黒き眼やなにを見る
海苔粗朶やかつて泳ぎし海狭し
露天風呂はるかに雪崩の響きあり
雪の果て巷に汚れし惑い犬
啓蟄の蟻先陣を争いて 95.5.4
彼岸過ぎなお肌寒き隙間風
薄日差し鳥雲に入る岬鼻
引鴨や数少な目の薄曇り
整うや帰雁の群の前後ろ
狭き庭木の芽の赤き目の前に
紅梅や向かいの庭の見やすきに
初花の美しき日に友送る
パステルの風穏やかに柳じょ飛ぶ
草の芽や蟻見守りて登り降り 95.5.5
土筆見つけて気分ほぐれたり
裏山で摘みし蕨入り宿の蕎麦
柔らかき蕨の入りし麓の蕎麦
シャラの花ただ一輪の庭涼し 95.7.16
風は鳴るお花畑ではぐるるや
雪渓を踏む跫音や峪深し
地の果てに浜茄子独り暮れ残る
七夕の短冊重しにわか雨
季節感なき町中へ水を打つ 95/7/18
目覚めれば今朝も雨音梅雨明けず 95/7/21
朝道に子らの影なし夏休み
釣り橋に精霊トンボやともに揺る 95/7/29
子の口の三つ並びし燕の巣